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介護を支援する介護休業給付金とは?申請方法や支給額を専門家が解説
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「親の介護と仕事、どうしたら両立できる?」
「介護で仕事を休むと、経済的に苦しいかも」
急に家族が介護を必要とする状態になると、仕事と介護の両立に困る人が大半でしょう。そんな時に十分な時間を確保し、経済的不安を軽減するのに役立つのが、雇用保険の介護休業給付金制度です。
この記事では、家族の介護にこれから臨む人に向けて、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、介護休業保険制度についての正しい知識をお伝えします。受給の条件や申請方法、支給額の計算などをわかりやすく説明するとともに、よくある疑問にも回答します。
- コラムサマリ
■介護を支援する「介護休業給付金」とは?しくみを簡単に説明
■介護休業給付金を受け取る条件は?
■介護休業給付金の申請から受給までの流れ
①申請の手続きはどこでする?
②申請に必要なものは?
③いつ振り込まれる?
■介護休業給付金の支給額はどう決まる?
■介護休業給付金に関する「よくある疑問」に回答
Q1 介護休業期間中に働いたら、支給額は変わる?
Q2 期間中に賃金をもらうと、支給額は変わる?
Q3 介護休業給付金の受給中に転職や退職をしても大丈夫?
Q4 介護休業給付金と併用できない制度はある?
Q5 以前に介護休業をした家族の要介護度が変化した場合、新規の扱いになる?
Q6 家族で複数人が同時に受給することは可能?
■長期的な介護体制を整えるためにも、介護休業給付金を活用しよう
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介護を支援する「介護休業給付金」とは?しくみを簡単に説明
介護休業給付金とは、雇用保険の一般被保険者が家族を介護するために休業した場合に受け取ることができる給付金です1)。支給額は原則として、「休業開始時の賃金日額×支給日数×67%」です。
介護休業給付金の主な受給条件は以下です。
• 雇用保険の一般被保険者である
• 家族が2週間以上の常時介護を必要とする
• 職場復帰を前提として介護休業を取得する
「常時介護」とは、「歩行、排せつ、食事などの日常生活に必要な便宜の供与を必要とする」状態を指します。
対象となる家族は、「配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」「父母・養父母」「子ども・養子」「配偶者の父母・養父母」「祖父母」「兄弟・姉妹」
「孫」です。配偶者の連れ子は養子関係にないと対象にならない点に注意しましょう。1人の家族の介護に対し、最長93日間を限度に3回まで申請することができます。
ちなみに、介護休業給付金は、介護休業終了後の職場復帰を前提とした給付金です。もしも介護休業の開始前から退職を予定しているのであれば、介護休業給付の支給対象にはなりません。また、休業終了後、職場復帰をしてから申請を行うので、休業期間中には受給ができない点も理解しておきましょう。
【コラム】必要な時間が1日程度なら、介護休暇を取得しよう
家族の介護で仕事を休みたいのが1日や数時間である場合、「介護休暇2)」を取得することもできます。「介護休暇」は要介護の家族のために休みを取得する制度で、労働基準法の年次有給休暇とは別に、対象家族1人に対して年5日まで取得することができます。申請は、書面での手続きに限定されておらず、口頭での申し出も可能です。ただし、有給か無給かは企業によるので確認が必要です。
参考資料
1)ハローワークインターネットサービス「介護休業給付の内容及び支給申請手続きについて」
2)厚生労働省「介護休暇について」
介護休業給付金を受け取る条件は?
介護休業給付金を受け取るには、介護休業を開始した日より前の2年間に雇用保険の被保険者期間が12カ月以上必要となります3)。ここでいう「1カ月」とは、「介護休業開始日の前日から1カ月ごとに区切った期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日ある月」です。ただし、この条件を満たしても、以下の場合には介護休業給付金を受け取ることができません。
• 休業期間中に11日以上、就労している
• 休業期間中に休業開始時の賃金日額×支給日数の80%以上の賃金が支払われている
パートタイム型契約社員や定年後の再雇用での嘱託型契約社員などの有期雇用労働者の場合も介護休業給付金は受給することができます。介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6カ月以降も労働契約が継続される見込みであることが受給条件になります。
参考資料
3)厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」
介護休業給付金の申請から受給までの流れ
介護休業給付金の受給には、どのような書類をどこで提出する必要があるのでしょう? 気になる給付のタイミングを含め、以下で詳しく説明します。
①申請の手続きはどこでする?
介護休業給付金の申請手続きは、介護休業の終了後に在職中の事業所を管轄するハローワークで行います。申請手続きは原則として、事業主を経由して行うものですが、希望する場合は被保険者本人が申請手続きを行うことも可能です。提出期限は、原則として、介護休業終了日の翌日から起算して2カ月を経過する日が属する月の末日までです(ただし、現在は時効の2年間まで手続きできます)。
②申請に必要なものは?
申請手続きには以下の書類が必要です。
①雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
②介護休業給付金支給申請書
③被保険者が事業主に提出した介護休業申出書
④休業開始時賃金月額証明書に記載した期間分の賃金台帳または出勤簿・タイムカード
⑤支給対象期間分の賃金台帳・出勤簿
⑥住民票記載事項証明書等
⑦振込先確認資料(通帳またはキャッシュカードの写し)
①と②はハローワークインターネットサービスのウェブサイトからダウンロードすることができ、電子申請も可能です。③④は介護休業日数の実績、④は支給対象期間の賃金の支払い状況、⑥は介護対象となる家族の氏名や生年月日および申請者との続柄を確認するための資料です。介護休業期間中に対象となる家族が亡くなった場合には、必要に応じて戸籍抄本、死亡診断書、医師の診断書などを添付します。
③いつ振り込まれる?
申請を済ませると、審査を経て、支給申請の結果が「支給決定通知書」か「不支給決定通知書」で通知されます。窓口であれば、原則、即日に支給決定、3日後に指定した口座に振り込まれます。郵送や電子申請の場合は、7日~14日程度で通知が届き、支給決定日から概ね1週間で振り込まれます。
介護休業給付金の支給額はどう決まる?
前述したように、介護休業給付金の支給額は以下の数式で算出します。
休業開始時の賃金日額×支給日数×67%
賃金日額は、事業主が提出する「休業開始時賃金月額証明書」により、原則、介 護休業開始前の6カ月間の給料を180で割った金額になります。支給日数は、休業終了日が属する月以外は30日で計算します。後述しますが、介護休業給付金の支給額は賃金の80%未満であることが原則です。
たとえば、賃金月額(休業開始時の賃金×支給日数)が 20万円、30万円、40万円の場合、介護休業期間に賃金の支払いがない場合、支給額は概ね以下のとおりになります。
月額の平均 支給額 20万円 13万4,000円 30万円 20万1,000円 40万円 26万8,000円 分割で介護休業を取得する場合、給付金の計算対象となる期間に1回目や2回目の休業期間があたって、月額が下がる可能性があります。また、一括で取得する場合も、介護休業開始前の6カ月の間に時短勤務などをしていると、給付される金額が下がってしまう点に注意しましょう。
介護休業給付金に関する「よくある疑問」に回答
ここまで介護休業給付金のしくみや申請方法について説明してきましたが、支給額や他制度との併用などについても、詳しく知りたい人も少なくないでしょう。以下でよくある疑問に回答します。
Q1 介護休業期間中に働いたら、支給額は変わる?
働いた日数が10日以下であれば、支給額に影響はありません。ただし、休業終了日が属する月が1カ月未満である時には、全日休業している日が1日以上あることが必須条件になります。
Q2 期間中に賃金をもらうと、支給額は変わる?
介護休業給付金の支給額は原則として賃金の80%未満となっています。支給対象期間中に勤め先から賃金の支払いがあった場合には、その分、支給額は減額されます。
Q3 介護休業給付金の受給中に転職や退職をしても大丈夫?
介護休業給付金の受給前から離職予定されている人は支給対象者になりません。 また、介護休業給付の受給中に退職した場合は退職日に属する支給単位期間についての支払いはありません。
Q4 介護休業給付金と併用できない制度はある?
産前・産後休業や育児休業とは併用ができません。産前・産後休業中や育児休業中に介護休業を始める場合、当初の休業は終わり、その日以降は介護休業給付金の支給対象期間に切り替わります。
Q5 以前に介護休業をした家族の要介護度が変化した場合、新規の扱いになる?
家族1人対して、介護休業給付金を受給できるのは、原則として通算93日、分割して3回までです。要介護度が変化してもこの原則は変わりません。ただし、もしも以前に介護休業をした時の取得期間が93日未満、取得回数が3回未満であれば、再度の支給は可能です。
Q6 家族で複数人が同時に受給することは可能?
それぞれが受給条件を満たしていれば、同時の受給は可能です。
長期的な介護体制を整えるためにも、介護休業給付金を活用しよう
雇用保険の被保険者しか利用ができない、1人の家族に対して通算で93日間しか休業は取得できないなどの難点はありますが、働きながら、家族の介護をする上で介護休業給付金は便利な制度です。家族の介護が急に必要になった時、この制度を利用すれば、経済的な負担を軽減できます。また、長期的な介護には耐えないとしても、介護体制を整えるためには十分な時間を取ることができるのが利点といえるでしょう。
この記事の執筆協力
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マネコミ編集部
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